映画『言の葉の庭』感想

この映画は、自分が初めて新海誠監督を知った思い出深い作品でもあります。初めて観た時は、映像の綺麗さに感動して声が出ないくらいでした。

この作品は、雨の日の日本庭園が舞台になっていて、とにかく雨と緑の描写が美しいです。雨のしずくや反射、ガラス・地面・壁やコップに映る雨。庭園の青い紅葉。アニメーションだと分かるのに、リアリティもあって不思議な感覚でした。あと1つ凄いなと思ったのが輪郭の色です。日の当たる所は白や黄色で、影は緑で。背景の緑に溶け込んでいくような。色使いが多彩で、それが繊細でやわらかい雰囲気を出している気がしました。そして描写と併せて拘られているのが音。透き通ったピアノの音色は二人の繊細な心情に合っていましたし、余分な音を入れずに自然音だけで構成されている所も素敵でした。

また、タカオとユキノさん二人の心理描写で一番好きなのは、やはりクライマックスのシーン。タカオの真っ直ぐな気持ちから一度は目を背けてしまって、けれど短歌の返し歌を思い出して追いかけるユキノさん。タカオの心情を吐露した叫びに涙して抱き着き、今まで隠してきた本心を吐露するユキノさん。そこに流れる秦基博さんの『Rain』。

最初にタカオの告白を断る時に、「1人で歩けるようになる練習をしてたの。靴がなくても。」とユキノさんが言っていて、それはもう貴方がいなくても大丈夫と言ったように聞こえたのですが、裸足でタカオを追いかけて彼に抱き着いたユキノさんを見て、さっきとは違う意味で、タカオには自分の気持ちに嘘をつかずに向き合って、ユキノさん自身一歩踏み出せたという事なのかなと、勝手に思いました。

あとは短歌です。

 雷神の 少し響みて さし曇り 雨もふらぬか 君を留めむ / 雷神の 少し響みて ふらずとも 吾は留らむ 妹し留めば

まだ貴方にここにいてほしいからと雨を願う歌に対して、「雨が降らなくてもここにいる。君がここにいてほしいと思ってくれるなら。」という返し歌。ユキノさんの背中を押した恋の歌。素敵すぎて…。

他にも二人がナレーションのように(?)風景や感覚を言葉で語る感じが小説っぽくて、そこも好きでした。

この作品を初めて観たのは確か大学時代だったのですが、社会人となった今改めて見直すと、この表現はこういう事を表わしていたのかもと気付きがあったり、二人の繊細な心情に、自分の経験が増えたからこそ感じられる事があったりと、面白かったです。約45分という短めの作品ですが、内容を詰め込んだ感じもなく、綺麗な映像と繊細な心模様をしっかり味わえる素敵な作品でした。