映画『幸せのレシピ』感想

人に心を開いてこなかった主人公の女性:ケイトが、人と関わることでの楽しさや幸せを知り、次第に心を開いていくラブストーリー。副料理長のニック・姪のゾーイとそれぞれ関わる中での、繊細な心情の変化が丁寧に描かれており、レストランで働く主人公たちらしく、暖かい料理がストーリーに色を添えていて、素敵な作品でした。

3人が打ち解けるきっかけとなったのは、やはり副料理長のニックだと思います。母を亡くし心を閉ざすゾーイに対して、バジルをちぎる手伝いをしてもらったり、仕事をしながらゾーイと一言二言会話したり、そういったさり気ない優しさがゾーイの心を開いたのではないでしょうか。

そんな2人の様子を見て、ケイトもニック・ゾーイへの接し方が変わり始めます。特に、母を亡くした悲しさを乗り越えられないでいるゾーイへの接し方。母の代わりや大人としてではなく、対等な人間として、愛していた姉が亡くなり自分も悲しいのだと、ゾーイと一緒に思い出を眺めながら悲しみを受け止める姿が印象的でした。

また、もう1つ印象的だったのは、カウンセラーとの会話です。カウンセラーの医師は、自分の意見を伝えるのではなく、ただケイトの話を聞いて、彼女の考えを深掘りするように促している。仕事一本で頑張ってきて他に世界を持っていなかった彼女にとっては、そういう存在は必要不可欠でキーマンだったのではないかと思います。

カウンセラーとの会話の中で、「人生のレシピが欲しい」とケイトが言うと、カウンセラーは「自分で作ったレシピが一番。」と答えます。その言葉に後押しされてか、他店の料理長として別の道を歩もうとしているニックに対し、「しない」と決めていることをして彼を引き留めるケイト。他人に心を開いてこなかった彼女が、勇気を出して変わろうとするこのシーンには、自分も勇気づけられました。

最後には、今まで料理に文句をつけていた客にケイトが反撃し店を辞め、ニックとゾーイの3人で新しいレストランを開業しています。店の入り口には、「ケイト・ニック・ゾーイのビストロ」と書かれた三角形の看板が。名前の部分を回すことが出来て、誰が上に来ることも出来る。自分のこだわりを貫きつつ、それぞれを尊重するという3人のやり方を具現化した粋な看板で、3人ならではの幸せの形に思えました。

この作品では、同じアパルトマンに住んでいる男性やニックへ、自分はこういう人なんだとケイトが話しています。自分がどういう人かを把握しているということだし、相手に堂々とそう言えることは、日本人の感覚では珍しいのではと思いました。そしてその自分の性格やルールを変えてまで、相手と一緒にいたいと思える、自分を変えていける。大切な人とすれ違い喧嘩をしても、勇気を出して相手と向き合うことで幸せを掴んでいく様子は、まさにケイトの「幸せのレシピ」でした。